困った反面教師たち
私の部屋はナースステーションから最も離れた角部屋。
症状軽めの退院間近な人々が移って来る。
ナースコール押す必要ない人が中心だ。
だがたまに他の部屋が満床のため
入ってくる重めの人もいる。
まあ大抵数日で他の部屋へ移る。
そんな状況に近い老人P氏。
どうやら脳梗塞で倒れたようだ。
不幸中の幸いか症状は軽め。
意識はハッキリしていて我が強い様子。
今朝も担当医と揉めている。
「先生早く出してくれよ。
俺りゃあこんなことしてる場合じゃねえんだ」
「そうですか。では9+3は?」
「14!」
「ダメですね。出すわけに行かないですよこれじゃあ」
実際足取りも覚束ない様子。
P氏は職人さん。
自分がいなければ現場は回らない。
年末書き入れ時には絶対出せと主張。
それはリハビリ次第と医師。
俺にはリハビリなんか必要ないとP氏。
ある日奥さん来訪。
謎が解けた。
P氏は競輪好きだった。
どうせ貴方競輪に行きたいんでしょと奥さん。
貴方なんかいなくても現場は回ってます。
大人しくしてなさいと一喝。
キレるP氏。
看護師も巻き込み大騒動だ。
最後は奥さん「帰りますから」と一言。
部屋は静けさを取り戻した。
別の老人Q氏は恐らく食事制限中。
私と同じく薄味メニューなのは当然だ。
だが今日も奥さんに携帯。
難聴があるようで声が大きい。
「飯不味くて食えたもんじゃねえ。
今日も頼むわ」
病院食ほとんど残し毎回濃い味付けの弁当を食べる。
鰻重に天丼。
丸々聞こえる。
今さらマズイもん食ってちょっと長く生きてなんになるってやんでえと。
その心境羨ましくもあるが。
奥さんが作るのもう面倒だと言ったらしく
「だったらヨーカドーかオリジンで買ってこい!」
よく考えれば老人とは言え70歳未満は戦後生まれ。
戦争を知らない子供たちが老人になったのだ。
最近言われる「キレる老人」増加の現場を見る思いだ。